「寂しい」と「淋しい」の違いと使い分け

「さびしい」の語源には、実は諸説あります。一説には、「錆（さび）」を語源にしているともいわれています。なぜ『錆』かというと、心が満たされない様子を鉄などの金属が錆びている状態に例えたものといわれているからです。ただ、これよりも、もともと「さぶし」という形が元になった説が現状有力です。「さぶし」というのが、「さびし」という形に変わったそうです。この元の形、いわゆる語源の「さぶし」の「さぶ」には、色々な意味があります。『心が荒れすさぶ』『勢いが衰える』『古くなる』といった意味がある「荒ぶ」を形容詞とした「さぶし（不楽）」から生まれた言葉とされています。

現代日本でよく聞かれるようになった、「さみしい」という発音は、「さびし」の変化した音と言われています。特に深い意味はなく、音変化した他の例を挙げると「つぶり」⇒「つむり」や、「けぶり」⇒「けむり」などがあるのです。

「さびしい」の漢字を表す「寂しい」と「淋しい」はどういった違いがあるでしょうか？たまに勘違いしている人もいるようですが、「さびしい」と「さみしい」の違いではありません。すでに前述したとおり、「さびしい」と「さみしい」は単なる音変化のみで、特に深い意味はなく、漢字の違いではありません。では、一体この2つの漢字の意味の違いはなんでしょうか？

漢字の意味上の違いを見ていきたいと思います。

①寂しい

しずかでものさびしいようすを表します。人気がなくて静か、心細くなるほと静かだという意味で使われることが多いようです。つまり、どちらかというと『客観的』な意味で静かな状態であることが前提で、その結果で心がさびしくなるといった状態です。

②淋しい

人恋しくもの悲しい、孤独で心細いことを指すことが多いようです。そもそも「淋しい」の漢字に『さんずい』が付いていることから、「淋雨」のように梅雨や長雨を表現することがあります。このように水がしたたる様子を表現したり、読み取ることができます。水がしたたり落ちる様子を表す漢字の意味から派生して、絶え間なく涙がしたたるようなことを連想させたり、「寂しい」よりも、もっと『感情的』『情緒的』な意味で使われることが多いでしょう。

「淋しい」の方は、常用漢字としては使われていないので、学校などでは教えられることはなく、新聞やテレビなどの公に出る文章では、圧倒的に「寂しい」を使われることが多いです。もちろん、使う必要がある場面では登場するのは言うまでもありません。逆に、『情緒』を表現する場である、文芸小説や歌詞などには、見る機会も多いのではないかと思います。あくまでも推測にすぎませんが、こういった感情移入してもらう芸術には、より人を思う情緒や恋しく思う気持ちが伝わると思い、「淋しい」が使われている場合が多いのかもしれませんね。しかし、一説では、目上の人に「淋しい」という漢字を使用することは失礼に当たると考える人もいるようです。TPOに分けて、漢字を使い分ける必要があるということでしょう。

「寂しい」と「淋しい」というのは、決定的な意味の違いがあるというより、その漢字が表現するニュアンスが違うということが分かりました。また、何をもって「さびしい/さみしい」と表現するのかによっても、使い分けるとベターということですね。ただし、どちらかを使ったからと言って間違っているという訳ではありません。どちらも「さびしい」という意味を持ち、状況を表す日本語です。この微妙なニュアンスや雰囲気の違いを表現したいときは、より意識して使うと良いのかもしれません。個人的には、世界の言語の中で、ここまで繊細な表現を気に掛ける言葉は日本語以上にないのではないかと思うほどです。日本人自身でも、今回のようにニュアンスが難しいと感じることもあり、常にベターな表現を探っている状態です。状況に応じて、日本語を使える日本人になりたいですね。

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