「充分」と「十分」の違いと使い分け

実は、「充分」と「十分」には、しっかりとした意味の違いがあります。

①「充分」

これは、『満たされた状態』を指します。『充』を使う表現を見てみましょう。「充実」「充実」「充填」などのように、どれも満たされている状態を示していると思います。この満たされているというのは、何かの基準となる数値を満たしているというよりも、主観的や精神的に「満たされているな～」「満足したな～」と感じることであり、客観的な事実が伴うとも限りません。

②「十分」

数字が入っている表現通り、「１０」満たされている状態を示します。たとえば、「腹八分目」というのは、8割方入っているけど、少し余裕がある状態ですね。これが「１０割」量として入れば、「十分」と言えるのです。つまり、数値化した客観的事実で「満たされている」と「十分」と表現されるということです。冒頭で、10割という意味なのでは？と言ったのですが、簡単に言えばその通りということですね。

このように、「主観的」である「充分」と、「客観的」である「十分」は、実はもともとは違う意味の言葉だったそうです。特に驚きなのが、「充分」は今の意味ではなく、「責務を果たす」という全然違う意味だったそうです。

では、「充分」と「十分」は、どちらが公の文章で使われる機会が多いのでしょうか？学校で習うのは、「十分」の方です。また、文部科学省用字用語例では「十分」と書かれています。なので、公の文章では圧倒的に「十分」が多いようです。ただし、日本国憲法では、「充分」が使われているようです。

では、実際にどのように使い分けたら良いかご紹介したいと思います。たとえば、「わたしはもう、じゅうぶんに食べた」と言う場合は、どちらを使うべきでしょう。これは、その人の胃の中が10割満たされている可能性もありますが、気持ちが満たされたという意味合いが強いので、「わたしはもう、充分に食べた」と表現するのがベターでしょう。美味しい食べ物を食べて、すっかり心身が満たされたと伝えることができます。このように「充分」という表現は、気持ちを表現するときにも非常に気の利いた表現だと思います。「じゅうぶんにお気持ちは伝わりました」「じゅうぶんなお気持ちありがとうございます」というとき、「十分」と言うと、間違ってはいないですが、より『満たされている』意味合いが強い「充分」の方が気持ちが伝わると思いませんか？あなたの気持ちには「満たされてる」「満足している」という意味合いを伝えるのに、うってつけです。

ところで、前述で、公的な文章では「十分」が使われることが多く、一般的にもこちらが使われることが多いので、こちらを使っておけばまず間違いはないのですが、以下の場合はまぎらわしいですね。

「十分焼きましょう」

「十分に人を集めましょう」

「まだ十分時間がある」

これって、「10分」のこと？それとも「じゅうぶん」のこと？紛らわしいので、こういった場合は、数字で表すか周囲の人は、状況判断になってしまうでしょう。できるだけ勘違いを起こさないためにも、このような場合は、表現方法にも工夫をしたいところですね。

ここまで、「充分」と「十分」の違いについて伝えてきましたが、もしどちらか迷ってしまったときは「十分」を使っておけば特に問題はないですし、一般的にはこちらの方が多く使われるのでまず大丈夫でしょう。ただし、「充分」という、『心が満たされている』という状態をあらわす表現をTPOに合わせて使えれば、グッと日本語の表現力が上がることは間違いナシです。こうした違いを少しでも理解してすると、日本語が本来持つ美しい語彙力を増やすことが出来ると思います。文章を書くときや読むときはもちろん、また直接漢字をやりとりすることはない会話の中でも、表現力が上がるのではないかと、個人的には考えます。

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